WHOの砂糖摂取ガイドラインと代替甘味料の役割
WHO 2015年ガイドラインの『遊離糖類は総エネルギーの10%未満、できれば5%未満』という基準を解説し、米麹甘味料を含む砂糖代替の役割を整理します。
WHOの砂糖摂取ガイドラインと代替甘味料の役割
WHO 2015年ガイドラインの核心
2015年3月、WHO は「Guideline: Sugars intake for adults and children」を発表しました(WHO 2015)。このガイドラインは、世界的に肥満・糖尿病・虫歯が増加する状況に対応するため、各国政府が国民の遊離糖類摂取量を減らす政策を立案する基礎となるものです。
主な勧告:
遊離糖類(free sugars)の摂取量を、成人および小児の総エネルギー摂取量の10%未満に減らすことを強く推奨する(strong recommendation)。
さらに、5%未満まで減らすことが、追加の健康便益のため条件付きで推奨される(conditional recommendation)。
「遊離糖類」の定義
WHO の定義における**遊離糖類(free sugars)**は次のものを指します:
- 食品の製造・調理・消費の過程で人為的に添加された単糖類・二糖類
- はちみつ・シロップ・果汁および果汁濃縮物に自然に含まれる糖
逆に、以下は含まれません:
- 果物・野菜に元々含まれる糖(intrinsic sugars)
- 乳製品の乳糖
つまり、ガイドラインの対象は「加工により食品に加えられる糖」であり、果物を食べることや牛乳を飲むことは制限の対象ではありません。
日本人の摂取量と乖離
厚生労働省「国民健康・栄養調査」では遊離糖類の摂取量は直接報告されていませんが、農林水産省の食料需給表や複数の研究から、日本人成人の平均的な遊離糖類摂取量は総エネルギーの 7〜13%程度と推定されています。
WHO の強い推奨(10%未満)にはギリギリ達する人も多いものの、条件付き推奨(5%未満)には大きな乖離があります。とくに加工食品・清涼飲料・菓子類からの遊離糖類が、知らないうちに摂取される傾向が課題です。
健康リスクの3つの軸
WHO ガイドラインの根拠となった主な健康リスク:
① 虫歯
最も強いエビデンスがあるのが虫歯との関連です。WHO は遊離糖類が総エネルギーの5%未満の集団で、虫歯有病率が有意に低いとする観察研究のメタアナリシスを根拠としています。
② 体重増加・肥満
遊離糖類、特に砂糖入り飲料の摂取と体重増加の関連は、複数の系統的レビュー(PLOS Medicine 等掲載)で支持されています。
③ 慢性疾患リスク
2型糖尿病、心血管疾患、一部のがんとの関連も研究蓄積中ですが、エビデンスの強さは虫歯・体重に比べると中程度です。
2023年:非糖質甘味料(NSS)の追加ガイドライン
2023年5月、WHO は「Use of non-sugar sweeteners: WHO guideline」を発表しました。主な勧告:
非糖質甘味料(NSS)の体重管理または非感染性疾患リスク低下を目的とした使用を、成人・小児に長期的に推奨しない。
これは、アスパルテーム・スクラロース・ステビア配糖体などの高甘味度甘味料を「ダイエット目的」で長期使用することへの慎重姿勢を示すもので、各国の食品政策にも影響を与えています。
米麹甘味料の文脈
WHO ガイドラインを踏まえると、甘味料の選択肢は次のように整理できます:
| 選択肢 | 砂糖の課題 | 高甘味度甘味料の課題 |
|---|---|---|
| 何もしない | 遊離糖類摂取が WHO 推奨を超える | — |
| 砂糖を高甘味度甘味料に置換 | 解決 | WHO 2023 ガイドラインで長期使用を非推奨 |
| 砂糖摂取自体を減らす | 解決(理想) | — |
| 発酵糖類で置換 | 部分解決(糖質は含む) | 含まない(自然由来) |
米麹甘味料は、糖質を含む点で完全な砂糖代替ではありませんが:
- 自然な甘味度(砂糖の 30〜60%)で、結果的に摂取糖質量が減る
- 機能性成分(レジスタントプロテイン等)を含む
- 化学合成甘味料の問題を回避できる
という点で、WHO ガイドラインの方向性と整合しやすい選択肢といえます。
公衆衛生政策における甘味料
各国政府の対応:
- 英国:砂糖税(Soft Drinks Industry Levy)を2018年に導入
- メキシコ:清涼飲料に砂糖税(2014年)、肥満・糖尿病対策
- フランス:清涼飲料の砂糖税、警告ラベル表示制度(Nutri-Score)
- 日本:2025年現在、砂糖税はないが、健康日本21(厚生労働省)で「適正な甘味の摂り方」を啓発
日本でも段階的に、加工食品の砂糖含量への注目が高まりつつあります。
「砂糖を減らす」を続けるための甘味料設計
WHO ガイドラインに沿うには、「禁止」ではなく「長く続けられる工夫」が重要です。具体的には:
- 自然な甘味度の発酵糖類で「徐々に甘さの基準を下げる」
- 機能性成分が含まれるため「摂る価値」を感じやすい
- クリーンラベル食品設計で、加工食品の遊離糖類を削減
米麹甘味料は、まさにこの「続けられる砂糖削減」を支える原料として、食品メーカーから注目されています。
まとめ
WHO 2015年ガイドラインは「遊離糖類の摂取を総エネルギーの10%未満、できれば5%未満に」と勧告し、2023年の非糖質甘味料ガイドラインで「高甘味度甘味料の長期使用は推奨しない」と踏み込みました。この2つを総合すると、自然由来で機能性を持つ発酵糖類は、公衆衛生の文脈で最も整合性の高い甘味料の一つと言えます。米麹甘味料はその代表例として、世界市場での意義を増しています。
河原 あい / Ai Kawahara
編集長 / 株式会社オリゼ CTO
株式会社オリゼ CTO。博士課程では発酵食品中の微生物の研究に従事し、博士(環境共生学)を取得。管理栄養士としての栄養学の知見と、微生物学・発酵科学の研究背景を併せ持つ。オリゼでは米麹・発酵関連の研究開発全般を担当。